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最高裁判所第三小法廷 平成11年(受)1197号 判決 2000年12月19日

上告人

浅川亮子

右訴訟代理人弁護士

圓山潔

被上告人

有限会社コグレハウジング

右代表者代表取締役

小暮義雄

右訴訟代理人弁護士

髙木國雄

三澤英嗣

主文

原判決を破棄する。

被上告人の控訴を棄却する。

控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人圓山潔の上告受理申立て理由について

一  原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  浅川之助(以下「之助」という。)は、内山新治郎から、同人の所有する第一審判決別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)を含む東京都葛飾区宝町一丁目一六番二の土地の一部及び同番一四の土地を賃借していたが、同人の死亡により、その相続人である内山正昭との間で、昭和四九年五月二三日ころ、改めて右借地につき賃貸借契約を締結した。

2 之助は、昭和五一年五月ころ、本件土地上に第一審判決別紙物件目録記載二の建物(以下「本件建物」という。)を建築することとし、前妻との間の子である浅川新三郎(以下「新三郎」という。)名義で建築確認申請をし、同年六月二二日に建築確認通知を受けた後、同年一一月ころ本件建物を完成した。昭和五二年二月二八日、本件建物は、家屋補充課税台帳に新三郎を所有者として登録された。以後、之助は、本件建物につき課税された固定資産税を新三郎の名義で支払い、右家屋補充課税台帳への登録を事後的に承認していた。

3  本件建物について、昭和六二年四月一七日、新三郎を所有者とする所有権保存登記(以下「本件保存登記」という。)がされた。本件保存登記は、新三郎において、その所有権を証する書面として、建築請負人である株式会社浅川工務店の建築工事完了引渡証明書、工事代金領収書(再発行分)及び取締役会議事録とともに、固定資産税課税台帳登録事項証明書を提出してその手続をしたものであり、之助の知らないうちにされたものであるし、之助は、新三郎が本件建物の登記名義を有することについては、これを黙示的にせよ承認したことはない。

4  新三郎は、昭和六二年一〇月二六日、本件建物につき、之助の五女利子の夫である田村明智(以下「田村」という。)に対し、同月二三日売買を原因とする所有権移転登記手続をした。

5  田村は、昭和六二年一〇月二六日、本件建物につき、谷山哲秀(以下「谷山」という。)との間で根抵当権設定契約を締結し、権利者を谷山、極度額を一〇〇〇万円、債権の範囲を金銭消費貸借取引、手形債権、小切手債権とする根抵当権設定登記手続をした。谷山は、本件保存登記及び田村名義の所有権移転登記を信頼したことにつき善意無過失であった。

6  谷山は、前記根抵当権に基づき、平成二年三月ころ、東京地方裁判所に本件建物の不動産競売の申立てをし、同月二〇日に不動産競売開始決定がされた。被上告人は、平成六年一一月一五日、右不動産競売申立事件において、本件建物を買い受け、翌一六日、その旨の所有権移転登記手続をした。

7  上告人は、昭和五三年五月二日に之助と婚姻した。之助は、平成元年五月二日、上告人に対し、本件土地の賃借権を含む財産を贈与した。

二  本件訴訟において、上告人は、被上告人に対し、本件建物の敷地である本件土地について有する賃借権に基づき、本件土地の所有者の所有権に基づく返還請求権を代位行使して、本件建物を収去して本件土地を明け渡すことを求めるとともに、本件土地の使用料相当損害金の支払を求めている。

三  第一審は、上告人の請求のうち本件建物収去本件土地明渡請求を認容するとともに、本件土地の使用料相当損害金支払請求を一部認容したが、被上告人の控訴に対し、原審は、概要次のとおり判断し、第一審判決を変更して上告人の請求を棄却した。

1  新三郎名義の不実の登録を利用することによって初めて不実の保存登記という虚偽の外観が作出されたのであるから、右不実の登録名義の作出に関与し、これを承認していた之助は、その後にされた本件保存登記を承認していなかったとしても、民法九四条二項、一一〇条の法意により、本件保存登記を信頼した善意無過失の第三者である谷山に対しては、新三郎に所有権がないことを対抗し得ず、したがって、谷山の根抵当権の実行によって本件建物の買受人となった被上告人に対しても、新三郎が本件建物の所有者でないことをもって対抗できないこととなり、被上告人は、右買受けにより、本件建物の所有権を取得したこととなる。

2(一)  建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、建物所有権の従たる権利としてこれに付随し、これと一体となって一の財産的価値を形成しているものであるから、建物に設定された根抵当権の効力は原則としてその敷地の賃借権にも及ぶものと解すべきである。したがって、土地の賃借人所有の地上建物に設定された根抵当権の実行により、買受人がその建物の所有権を取得したときには、従前の建物所有者との間においては、特段の事情のない限り、右建物の敷地の賃借権も買受人に移転する。

(二)  そして、この理は、真実の建物所有者で、その敷地の賃借人である者が、その建物の不実の保存登記を利用され、所有権移転登記を経由した建物に設定された根抵当権の実行による買受人に対し、民法九四条二項、一一〇条の類推適用により、建物所有権をもって対抗することができない場合も同様であると解するのが相当である。

(三)  本件においては、本件保存登記及び新三郎から田村への所有権移転登記を信頼したことにつき過失がなかった谷山の取得した根抵当権の効力は、本件建物のみならず、本件土地の賃借権にも及んでいるから、その後の右根抵当権の実行に基づく競売によって、買受人である被上告人は、本件建物の所有権を取得したのみならず、本件土地の賃借権をも確定的に取得し、一方、上告人は、右賃借権を喪失したものというべきである。

四  しかしながら、原審の右三の判断中2の部分は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

土地賃借人がその土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、原則として、右抵当権の効力は当該土地の賃借権に及び、右建物の買受人と土地賃借人との関係においては、右建物の所有権とともに土地の賃借権も買受人に移転するものと解するのが相当である(最高裁昭和三九年(オ)第一〇三三号同四〇年五月四日第三小法廷判決・民集一九巻四号八一一頁)。しかしながら、建物について抵当権を設定した者がその敷地の賃借権を有しない場合には、右抵当権の効力が敷地の賃借権に及ぶと解する理由はなく、右建物の買受人は、民法九四条二項、一一〇条の法意により建物の所有権を取得することとなるときでも、敷地の賃借権自体についても右の法意により保護されるなどの事情がない限り、建物の所有権とともに敷地の賃借権を取得するものではないというべきである。

これを本件についてみると、原審の確定した前記事実及び記録にあらわれた本件訴訟の経過に照らすと、新三郎及び田村は本件土地に賃借権を有するものではなく、本件建物はそのことを前提にして競売されたものであることがうかがわれるのであって、被上告人は、田村が本件建物について設定した根抵当権に基づく不動産競売手続において、本件建物の所有権とともに本件土地の賃借権を取得するに由ないものといわなければならない。他方、前記事実によれば、之助は右賃借権を上告人に贈与したというのであり、被上告人側において、本件土地の賃借権について民法九四条二項、一一〇条の法意により保護されるべき事情が存することはうかがわれない。

そうであるとすれば、本件土地の賃借権者は上告人であり、本件土地の所有者の所有権に基づく返還請求権を代位行使することにより本件建物を収去して本件土地を明け渡すことを求める上告人の請求は理由がある。

五  以上によれば、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の確定した事実によれば、上告人の請求を一部認容した第一審判決は正当として是認すべきであり、被上告人の控訴はこれを棄却すべきものである。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官奥田昌道 裁判官千種秀夫 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣)

上告代理人圓山潔の上告受理申立て理由

一、 原審判決は、最高裁判所 昭和四〇年五月四日第三小法廷判決(民集一九巻八一一ページ)の、建物を所有するために必要な敷地の借地権は、建物所有権の従たる権利としてこれに付随し、これと一体となって一の財産的価値を形成しているものであるから、建物に根抵当権が設定されたときはその借地権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されるものと解すべきである。したがって、借地人所有の地上建物に設定された根抵当権の実行により、買受人がその所有権を取得したときには、従前の建物所有者との間においては、特段の事情のない限り、右建物に必要な借地権も買受人に移転するとの趣旨を引用し、この理は真実の建物所有者で、その敷地の借地人である者が、その建物の不実の保存登記を利用され、所有権移転登記を経由した建物に設定された根抵当権の実行による買受人に対し民法九四条二項、一一〇条の類推適用により、建物所有権をもって対抗することができない場合も同様であると解するのが相当であるとした。

二、 最高裁判所 昭和四〇年五月四日第三小法廷判決(民集一九巻八一一ページ)の事案は、建物所有者が敷地の賃借人であるという、真正な権利関係にあったものである。

本件の場合、本件建物の所有者である亡浅川之助が訴外浅川新三郎名義で固定資産税を納付していたところ、訴外新三郎がほしいままにこの建物の保存登記をなし、これを訴外田村明智が所有権移転登記をなし、訴外田村明智が第三者に抵当権を設定したものである。

従って、訴外新三郎及び訴外田村明智が適正な土地賃借人の地位に立ったことはなかったのである。

すると、訴外新三郎の本件建物保存登記の時、並びに訴外田村明智が本件建物の所有権移転登記を受けて以来、敷地の賃借権を取得したことはなかったのである。

本件土地賃借権者はあくまでも亡之助であって、訴外新三郎は外形的に土地賃借権者に立ったことも一度もないのである。

土地賃借権は債権契約があるのであるから、その権利を取得していない者が真正に他の者に権利譲渡できるものではない。

外形信頼による保護において、訴外田村明智が土地賃借人でなかった以上、被上告人が保護されるものではない。

取得していない権利が従物として移転する理はないのであるから、前記最高判例は本件に適用されないのである。

この点、原審判決は誤った判断をし、判決の結果に重大な影響を与えたので破棄されなければならない。

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